潰瘍性大腸炎の外科治療
外科治療 | ||
1.手術適応 | 2.手術方法 | 3.オペの入院期間 |
4.オペのメリット | 5.オペのデメリット |
外科治療
外科治療は「大腸全部を摘出するオペ」をします。UCは炎症のある大腸の一部だけを切り取っても、切った所から炎症がまた始まるので、手術する場合は大腸全部を切るしかありません(通常は大腸以外には炎症は出ません)。さいわい大腸は無くても生きて行けるので可能なオペです。
どこの病院でも受けられるオペではなく、北日本-東北大学病院、東日本-横浜市民病院・横浜市立大学病院・東大病院、中部-三重大病院、関西-兵庫医科大学病院、中国-広島大学病院、九州-久留米大学病院などが手術例が多いようです。
手術適応
手術適応には2パターンあり絶対的適応と相対的適応に分かれます。
■絶対的適応(緊急手術)
命に関わる状況になると手術する他に方法はありません。いわゆる緊急手術で、遅くても7日以内に手術が必要です。当然様々な危険が伴うので、できることなら緊急手術になる前に手術したいものです。
絶対的緊急手術(即刻手術が必要)- 穿孔:腸管に穴があいて破れてしまった。
- 大出血:輸血が追いつかないくらい大腸から出血した。
- 中毒性巨大結腸症:大腸が直径6cm以上に腫れあがり毒素が全身に回る。
- 激症や重症:2週間以上内科治療で改善の見込みがない。
- 癌化:大腸で癌細胞が見つかったり、その疑いがある。
■相対的適応(待機手術)
医者から「そろそろ手術をしてはどうか」と薦められ、患者も希望する場合です。待機手術と呼ばれ、患者の体調を整えて十分な準備をして手術に望みます。一般的に「ステロイドの累積使用量が10000mgを超えたらそろそろ手術」と言われていますが、内科医によっては「20000mgでも大丈夫」と言う事もあり、3万や4万も使っている人も結構居たりします。(あくまで結果的データからの目安で、10000mg以下でも甚大な副作用が出て手術になる人はたくさん居ます)
以前は待機手術を受ける患者さんは少なかったのですが、手術技術の向上や情報の広がりに伴い、最近は進んで希望する人が増えてきました。就職や結婚・出産のために手術を選択する人も多いです。甚大な副作用が出る前に病院や術式をよく調べて、安定している緩解期を狙って手術する方が、より安全で高い術後QOL(生活の質)を保てる可能性が高いです。
相対的待機手術(タイミングを計っての手術です)- 難治性:半年以上緩解できない・何度も入退院を繰り返す
- 局所合併症: 狭窄や瘻孔ができてなかなか改善しない
- 治療の副作用:骨粗鬆症・大腿骨頭壊死・白内障・緑内障・難聴・ステロイド筋症・ステロイド神経症・鬱・その他
- 社会生活が送れない:仕事ができない・結婚や大学卒業をひかえて等
手術方法
術式はいくつかあり、患者の状態や病院の方針によって変わります。
永久回腸人工肛門(永久ストマ)
大腸を取った後、小腸をお腹から人工肛門として外に出します。永久人工肛門の場合は、その後お尻の穴も閉じてしまいます。最初からこの手術が選ばれる事はほとんど無く、オペ後に重大なトラブルが起こった場合や、肛門のあたりに甚大なダメージが合った場合に行われます。しかしながら潰瘍性大腸炎自体からは開放されますし、漏便を気にしなくていいので便の管理は楽になります。2期や3期の分割手術で一時的に人工肛門にしたまま「漏れないし快適だから」とそのまま永久人工肛門にしている人も居ます。永久人工肛門にしてお尻をクローズした場合は大丈夫ですが、大腸や直腸が残存する場合は永久ストマであっても定期的に癌検査が必要です。
経験の少ない地方の大学病院などで有無をいわさず永久ストマになった場合、直腸がある程度残っていれば兵庫医大や三重大などの専門外科でストマを閉じる手術ができる場合があります。専門外科で一度セカンドオピニオンを受けてみる方が良いかもしれません。(完全に肛門管が切除されて肛門を縫って閉鎖してしまっている場合は再手術できないかもしれません)
回腸直腸吻合術:IRA
上行・横行・下行結腸を切除し、丸々残した直腸と小腸を繋ぐ手術です。術式的には初期のものです。患者の全身状態が悪くて複数回オペに不安がある場合や、クローン病との見分けが付き難い場合、緊急手術で執刀病院の設備が不備な場合などに行われます。人工肛門を作ること無く1回で終わりますが、残った直腸粘膜が再燃する事があるので内科治療を続ける必要があります。また、定期的な癌検査も必要です。なお、一度この手術をしてしまっても、横浜三重兵庫であればサルベージ手術として直腸を切除するIACAやIAAの手術を再度おこなう事も可能です。
回腸嚢肛門管吻合術:IACA
直腸の代わりに便を溜めるJポーチ(嚢)を小腸で作り、肛門管に繋ぎます。1回のオペで終わる事ができます。ほんの少し(1-2cm程)直腸粘膜が残り、そこが再燃したり癌化する可能性が残ります。粘膜を完全に除去する回腸嚢肛門吻合術よりも「術後の排便回数・漏便頻度が少ない」と言われています。が、漏れる人は漏れるようで、術式による差はそれ程無く、個人差の方が大きいようです。IACAの一番の権威は横浜市民病院や横浜市立大センター病院です。ここなら、かなりギリギリまで粘膜が取れ、術後の再燃や癌化もあまり無いようです。IACAを受けるのであれば横浜で受ける事をお薦めします。(命に関わる場合は別です)
直腸粘膜切除・回腸嚢肛門吻合術:IAA
直腸の代わりに便を溜めるJポーチ(嚢)を小腸で作り、肛門に繋ぎます。肛門管吻合術では残ってしまう直腸粘膜も全て切除します。そのため、粘膜の再燃・癌化の危険性がなくなります。直腸粘膜を全て取るためにレーザーメスで焼き切るのですが、熟練した技術が必要な上に縫合不全や感染症などのトラブルも発生しやすいので、安全の為に2期か3期に分割して手術をおこないます。兵庫医大と三重大はハーモニクスと呼ばれる超音波メスで執刀するので1期手術をする事が可能です。(症状や副作用によっては2期や3期になることもあります。)IAAはIACAに比べて術後の肛門の回復が遅く、トイレ回数や便回数が多いと言われています。が、漏れない人は漏れないようで、術式の差より個人差の方が大きいようです。IAAを受ける場合は兵庫か三重で受けるのがお薦めです。(命に関わる場合は別です)
終末回腸口側移動法:TITP
九州大学で行われている術式です。普通の術式は小腸の一番最終部分(つまり盲腸のすぐ手前の部分)でJポーチを作るのですが、この方法ではストマから後の小腸部分を前後ひっくり返して、小腸の最終部分をJポーチに回さずそのまま小腸として繋ぎます。九州大によれば終末回腸(小腸の終末)は胆汁酸の吸収、ビタミンの吸収、消化管ホルモンの分泌などが優れていて、便の固まり方がIAAやIACAよりも良いと言われています。IAAにもIACAにも使えるそうです。術式数はそんなには多くないようです。
腹腔鏡下手術
最近出てきた手術方法で、IACAを腹腔鏡でおこないます。手術の傷が小さく目立たない、開腹しないので癒着が少ない、体への負担が少ないので回復が早いと言われています。が、腹腔鏡では角度的に直角に粘膜が切れず、例え最短部分が1-2cmでも反対側の最長部分はかなり残ってしまったりします。(IAAは基本的にはできません)また開腹手術だと3-4時間の手術が腹腔鏡だと7-9時間ほどかかったり、途中で開腹手術に切り替わったりすることもあり、まったくのノーリスクというわけではありません。日が浅い術式でまだまだ「練習中」の感があるので僕個人としてはお勧めしません。
腹腔鏡併用手術
腹部の上の方に腹腔鏡を入れて、下腹部は小さめに開腹して腹腔鏡で見ながら手を入れて手術します。腹腔鏡だけで施術するよりも短時間で行なえ、癒着防止や回復の速さも見込めます。
オペの入院期間
トラブルが無ければ、大体は術前2週間・術後2週間程度で退院になります。学生の場合は夏休みや冬休みにオペをする事が多いです。複数回オペの場合はオペとオペの間は約3ヶ月ほど空けて、自宅療養することになります。「1回目オペ1カ月入院」→「3〜6カ月自宅で待機」→「2回目オペで1〜2カ月入院」と半年〜1年くらいかかります。自宅待機中も治療中として会社を休んで傷病保険をうけられますが、基本的に元気なので働きにでる人も多いです。
オペのメリット
- 再燃する大腸が無くなり腹痛から開放されます
(術式によっては残った直腸や粘膜が再燃する可能性もあります) - 普通の社会生活が送れる
(入退院することがなくなります。仕事やスポーツもOKです) - プレドニンなどの副作用から解放されます
(出産も薬の副作用を考えなくて良いです) - 腸管外合併症が改善する
(壊疽性膿皮症や眼病が改善したり進行が止ります) - 食事制限がほとんど無くなる
(一部ワカメ・モヤシなど詰まり易い食べ物は注意、お酒も飲みすぎると下痢する事も) - 大腸癌の危険性が無くなります
(直腸粘膜を少し残すオペは危険性が残り、定期診断が必要です)
オペのデメリット
- オペが複数の場合、オペとオペの間の期間、人工肛門を付けねばならない。
(オペが全て終われば人工肛門は無くなりますがオペ自体の失敗の可能性があり、最悪一生人工肛門になることもあります。兵庫医大の場合2.8%人の方が永久人工肛門に。もっとも、オペが始まった初期(10年位前)の手術例が多い) - 大腸が無いため脱水しやすい体になる。(特に夏場や風邪の時)
(通常は水分の殆ど(7リットルくらい)は小腸で吸収され、大腸は500ccくらいしか吸収しません、このため平常時は大腸が無くてもそれほどでありません。しかし風邪などで下痢をすると、すぐに水分や電解質のバランスが崩れて脱水を起こしたり寝込む事もあります) - 漏便する
(夜中寝ていて漏れる場合が多い、生理用品を3割の人が使用、7割の人が漏便経験あり。週1回平均、最少月1回、最多1日7回。また、直腸粘膜を残す場合は肛門の回復が早いといわれますが最終的には「残す場合」も「残さない場合」も回復度は同じ程度になるようです) - 再燃での入院は無いがオペ自体の失敗や腸閉塞などで入院の可能性がある。
(オペ後何年もしてからトラブルを起こして再入院する事もあります。) - 傷が残る
(正中に大きな傷ができます。ステロイド副作用による傷の治り方や外科医の腕によって傷の残り具合が違ったりします。ケロイドは術後に形成外科などで取ることもできます。) - 特定疾患の認定が軽快者や認定外になることがある
(都道府県によって差があります。回腸嚢炎などで再入院した場合などは再申請すれば再び認定される場合もあります。)