術後の注意
1.手術直後に起こりうるトラブル | 2.手術後の長期的なトラブル | 3.術後の食事 |
4.漏れ対策 | 5.風邪・食中毒など | 6.妊娠出産 |
7.特定疾患の継続 |
手術直後に起こりうるトラブル
手術後は手術による合併症や内科治療薬の副作用、大腸が無くなった事による体質変化による様々なトラブルが起こる可能性があります。異変を感じたら早めに主治医に診てもらいましょう、放置していると大事になり、最悪の場合開腹手術や人工肛門になるケースもあります。また、まれに何年も経ってからトラブルを起こす事もあるので、調子が良くても心のどこかに留意しておきましょう。緊急の場合すぐに病院に連絡が入れられる様に電話番号くらいは持ち歩きましょう。
・縫合不全症状:出血や膿が出る。糸やホチキスがたくさん出てくる事もある。
手術後、縫い合わせた部分がくっつかずにほつれたりします。ステロイドを多く使っていると起こり易い合併症です。Jポーチや肛門吻合部で縫い目が開く場合は骨盤内感染や回腸嚢炎をおこす事があり大変危険です。お腹の表面の傷口が抜糸後にくっ付かずに開いたりする事もあります。滅菌ガーゼをあてて毎日消毒すればそのうちくっ付きます。
・骨盤内感染症状:ピンクの膿が出てくる。お尻の奥が重く痛い。熱が出る。
Jポーチや肛門の縫合部が開いたり、穴(瘻孔)ができた場合に体内に便が漏れて感染症を起こし、膿が溜まります。免疫抑制剤を使っていると起こる可能性が高くなります。これを起こすとなかなか大変で、一度人工肛門にして治療する事もあります。場合によっては永久人工肛門にせざるえない場合があります。
・イレウス(腸閉塞)症状:お腹が気持ち悪く吐き気がする。便が出なくなる。
腸の機能が回復していないのに食べ過ぎたり、消化の悪い物をたくさん食べて詰る事があります。術直後であれば水で詰ったり、自分の消化液で詰ることすらあります。処置は鼻から管を入れてポンプで吸い上げてお腹の中の圧力を下げて通過させます。当然、しばらく絶飲食です。術後、腸がねじれていたり癒着や狭窄(狭くなる事)があって詰る事もあります。その場合は開腹手術をしないと治らないことがあります。
・下痢症状:とにかく下痢です。脱水を起こしてふらふらになったりします。
水分補給が追いつかず、点滴で水分補給しなければならない程になる事があります。原因不明の下痢であるHigh-Output症候群というのもありますが、一日に1500CC以上もの水分を取りすぎて下痢と勘違いする人も居ます。水分の量に気をつけて取り方を工夫しましょう。また、水分だけでなく電解質(カリウムとか)も足りなくなったりします。
・お尻が痛い症状:寝ても覚めてもお尻が痛い
トイレ回数が多かったり、水様便や粘液が漏れ出てくることでお尻がかぶれます。軟膏を塗るくらいしかないですね。便回数が減って漏れが解消されてくれば治りますが、しばらくはかかります。アズノール軟膏やネリプロクト軟膏・プロクトセディル軟膏などがありますが、紫雲膏(しうんこう)という漢方の紫色の軟膏が評判が良いようです。一応医師の処方で出して貰えることも有るようですが、なければ漢方薬局で小太郎漢方製薬というメーカーの20g980円のものが買えます。あと、トイレはペーパーで拭かずにウォシュレットで洗って温風で乾かすだけにする方が擦れなくて良いです。お尻が荒れている時は、ストマのケアに使ったパウダーを肛門の回りにつけることも一つの方法です(ティッシュに粉をふってはたくように付ける))
・男性機能障害症状:たたない、いけない、出ない。
直腸・肛門の辺りには前立腺や神経があるので手術で傷付ける事があります。一時的に麻痺しているだけであれば3ヶ月〜半年で改善しますが、神経が切れていたり(勃起しない、いけない)、精管が癒着して詰っていたり(精液が出ない)、膀胱にバイパスしたり逆流したり(尿に精液が出ます、妊娠は可能)する場合等はなかなか治りにくいです。泌尿器科にかかる必要があります。何年もしてから不意に治った人も居ます。
手術後の長期的なトラブル
・回腸嚢炎(かいちょうのうえん)
症状:下痢やトイレ回数が増え、お尻の奥(尾テイ骨のあたり)が重く痛い。まっすぐ座っていられない程の場合もある。微熱が出る。ピンクの膿や血が出てくる事も。
回腸嚢(Jポーチ)が炎症を起こします。小腸が大腸化してくるからとも言われますが、原因は不明です。IAAよりIACAの方が起こり易いといわれていて、病院によってはかなりの患者が回腸嚢炎を起こしているようです。(兵庫や三重では患者の5-7%の発症率ですが、3割以上が起こしている病院も有ります。)治療はフラジールという抗生薬を使い、腸を安静にするために絶食することもあります。早めに医者に掛かる方が治りやすいです。また、ヤクルトミルミルが回腸嚢炎の防止に効果があるという研究があるので、飲んで下痢を起こさないのであれば週に1本くらい飲むと良いでしょう。関節炎が多い人の方が回腸嚢炎を起こしやすいという報告があります。
・二次的回腸嚢炎
Jポーチの縫合不全や瘻孔などが原因で二次的に炎症を起こす場合があり、下痢や出血が慢性化や難治化したりします。この場合は絶食と薬物治療で原因となる瘻孔などが治るのを待ちますが、症状が重い場合には一時的に人工肛門にしたり、最悪の場合は再手術や永久人工肛門になることもあります。症例の少ない大学病院ではなかなか診れないので永久人工肛門になることも多いので、できれば兵庫や三重で診てもらう方が良いでしょう。転院とまで行かなくても、セカンドオピニオンで診立てをしてもらうべきです。
・痔瘻・瘻孔
症状:お尻が痛くなります。血や膿が出たりします。
肛門部に痔や瘻孔ができたり、その部分が感染症を起こす事があります。瘻孔は肛門の横に穴が開いてそこから便が出たり、膣や尿道などと穴が繋がってそちらへ漏れることもあります。防止するためにもウォシュレットで清潔にしておきましょう。瘻孔ができた場合は一時的にストマにして治療します。穴が塞がればストマクローズすることができます。
・肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)
症状:お尻が痛くなります。血や膿が出たりします。
ものすごく腫れたりします。痔瘻や瘻孔がひどくなって膿が溜まります。ドレイン管を入れて膿を出して酸性水で洗ったりします。これも一時的に人工肛門にしたり、最悪の場合は再手術や永久人工肛門になることもあります。
・ステロイド離脱症状
症状:急にだるくなり動悸や頭痛や息切れで立っていられない程に苦しくなります。
ステロイドを長期に渡って使っていると副腎機能が弱くなり、急に発作状態になることがあります。ステロイドを減量していく過程で5ミリ前後で起こる場合が多いですが、0になってからも2年くらいは起こる可能性があるので留意しておきましょう。(レアケースとして10年近く経ってから発作が起こりステロイドを投与したら治ったという人も居ます。)応急処置としてプレドニンを一錠飲めば元気になれますが、その後すぐに主治医にかかってください。副腎不全などを起こすと死亡する事があります。
・十二指腸病変
症状:十二指腸がご飯が食べれないくらい痛い
十二指腸の粘膜が潰瘍性大腸炎のように炎症を起こします。術前に発症することも術後に発症することもあるそうです(発症率2-3%)。出血を伴い、治療には5ASA製剤を粉末にして投与するそうです。原因はよく解っていません。
・関節が痛くなる
ステロイドの離脱症状の軽いものとして関節が痛くなったりする事もあります。
・イレウス(腸閉塞)
術後何年も経ってから詰る患者も居ます。食事の取り方は腹八分目で色んな物をバランスよく食べましょう。
・胆石
症状:右の肋骨の下やみぞおちが痛くなったり、右の背中や肩まで痛くなることも。痛みが無い事もあります。熱や黄疸が出る事も。
小腸での胆汁の吸収バランスが崩れる為に胆石ができやすい体質になります。年一回程度で定期的にエコーで検査をする方が良いでしょう。6-7%の患者に起こるというデータがあります。
・尿管結石
症状:わき腹から腰骨部にかけて痛みます。突然激痛になることも。
体内の水分バランスが崩れて尿が濃くなるので石ができやすい体質になります。石の元になりやすいシュウ酸の多い食べ物(ほうれん草・ココア・チョコ)などを取り過ぎないようにしましょう。年一回程度で定期的にエコーで検査をする方が良いでしょう。3-4%の患者に起こるというデータがあります。
・肛門狭窄
症状:便がなかなか出にくく、細切れでしか出ない。残便感があり便回数が多い。
お尻の穴が狭くなってくる事があります。便が通り難いのですっきりしません。狭くなり過ぎると詰ってしまったりするので、出難くなったと思ったら主治医に検査してもらう方がよいでしょう。狭くなるとブジー管を入れて広げられるのですが、結構痛いので早めに診てもらう方が良いです。あと、急激に漏れや便回数が減った場合に、実はお尻が狭くなっただけだったという事もあるので要注意です。
・腹部皮下膿瘍
症状:お腹の正中の傷跡やストマクローズの傷跡の近くで膿のしこりができます。
お腹を縫った糸などが傷口跡から段々出てくる事があり(大体は糸が出ればすぐ治ります)、それが原因で感染症をおこして膿が溜まったり腫れる事があります。腫れ過ぎるとドレイン管を入れて膿をだす必要があります。まぁ普通は滅多に起こらないんですけどね。
・脱水
下痢を起こしてだるくなります。頭痛や息切れも。
ひどい下痢を起こすと、水分を取っても取っても水様便になるだけでどんどん消耗します。普通の人だと2-3日の下痢なら病院に行かなくても何とかなりますが、オペ患者では一日下痢が続けばそれだけで脱水になれます。特に風邪をひいた時などに下痢→脱水となりやすいです。本格的な脱水になってくると口から飲んだだけでは追い付かないので近所の病院で良いですから点滴をして貰ってください。また、カリウムなどの電解質も足りなくなってくるので水を飲むよりスポーツ飲料を飲んだり、ソリタという脱水用の薬を医師に予め貰っておくのも良いでしょう。
・貧血
鉄分不足から貧血を起こす事があります。
・再燃
IACA(粘膜を少し残す)やIRA(直腸を残す)の手術の場合には術後も潰瘍性大腸炎が再燃することがあります。
・癌化
IACAやIRA、直腸粘膜が残っている状態での人工肛門の場合に、残存大腸が癌化することがあります。定期的に癌検査が必要です。もし癌細胞や特異細胞が見つかった場合はサルベージ手術(IAAや永久ストマの再手術)が必要です。直腸癌はリンパ節が近いので転移すると厄介で、またリンパ節も含めて大きめに患部を切り取るので術後に男性機能や妊娠に影響がでる事があるので早めの発見と治療が肝心です。
術後の食事
手術前に比べればほとんど食事制限はないと言っても良いのですが、ものや量によっては注意が必要です。一番注意が必要なのはイレウス(腸閉塞)です。手術による腸の繋ぎ目は多少固くて狭くなっていたりするので、そこで消化の悪い食べ物が物理的に詰る可能性があります。(消化器の手術をした人は全員その可能性があります)また、IRAやIACAで粘膜が残っている場合は再燃にも気をつけましょう。バランスの良い食事をよく噛んで腹八分目に食べるのが基本です。
■つまり易い食べ物を一度にたくさん食べない。
モヤシ・わかめ(海苔はOK)・とうもろこし・きんぴらごぼう・えのきなどキノコ類・糸コンニャク(板コンニャクはOK)・かんぴょうetc…「台所の流しにたくさん流したら詰りそうなもの」と思ってもらえば良いです。モヤシもラーメンに入っている程度なら麺や焼豚などと一緒に食べる分には大丈夫ですが、モヤシ炒めだけを一皿たいらげると危ないです。同じくとうもろこしもピザのトッピングとかは大丈夫ですが、バターコーンを丼一杯食べるとかが危険なのです。要は1種類の食べ物だけをたくさん食べなければ良いのです。
■下痢し易い食事
辛いもの・油っこいもの・炭酸飲料・アルコール・牛乳etc…。人によりますが下痢を起こす場合があります。
■シュウ酸の多い食べ物
ホウレンソウ・チョコレート・ココア・セロリetc…。シュウ酸をたくさん取ると結石ができやすくなったりします。あまり神経質になることは無いですが、僕はホウレンソウは食べません。でもチョコは食います。
漏れ対策
術後の一番多い悩みは漏便です。昼間起きている間はそれ程漏れないのですが、夜寝ている間に漏れる事が多いです。(漏れの頻度は個人差がかなりあり、全然漏れない人もいれば漏れまくりの人も居ます)術後間も無い頃は毎晩のように漏れる人も多いです。漏れない対策と、漏れた後の対策をしておきましょう。後は時間が経てば段々お尻の筋肉が回復してきて漏れや便回数が安定してきます。3ヶ月〜半年で落ち着いてきて、あとは年単位の時間が必要です。
■漏れない為の対策
・ロペミンなどの下痢止めを出してもらう。
・食事の時間をきっちり決める(トイレ時間も決まってくる)
・水分だけを多くとらない。(ご飯の時や、何か食べてから飲む、又はチビチビ飲む)
・夕食の時間を少し早めにする。(6時台とか)
・ミルミル(ビフィーネM)やヨーグルトなどを時々食べる。(合わないときは止める)
・寒天を料理に入れてとろみをつける。(料理にもよります)
・夜遅くに食べたり飲んだりしない。
・夜は牛乳やアルコールを控える。(どちらも下痢を起こしやすい)
・寝る前に必ずトイレに行く。
・それでも頻繁に漏れるようなら夜中に一度起きる習慣をつくる。
(目覚ましをかけて2〜4時頃に一度起きる人もいます。)
・二度寝しない。二度寝すると結構な確率で漏れます。
■漏れた時に損害を減らす対策
・夜寝る時はパットやオムツを当てておく。
・漏れても良いように腰シーツ(バスタオル)やおねしょシートを敷いておく。
・横向きで寝る。(漏れた時に損害が一番少ないし、気が付きやすい)
・パンツ一丁で寝る。(パジャマの損害がなくなりますが寒い^^;)
・布団やシーツは安物にして買い換えやすくしておく。
■トイレ回数や漏便を減らすトレーニング
・ある程度はトイレを我慢する。
(無理な我慢はお尻にダメージがあり、トラブルの原因になるのでほどほどに。)
・家に居ない。(仕事や外出をする方が回数が減ります)
・エスカレーターを使わない。(階段昇り降りがお尻の筋肉を鍛えます)
・あえてパットや薬を使わなかったり減らしたりする。
(背水の陣を引く方が心的体的に鍛えられます)
あと、余談ですが「オナラが判る」ようになれれば一人前です。(判らない人も居ます)体が慣れてくるまでは、なかなか便かオナラかが判らなかったりします。横になっているとオナラをしやすいですが、座ったままや立ったままでオナラをするのは難しいです。(できる人はかなり成功例だと思います。)
風邪・食中毒など
内臓の手術をしている人は内臓の体力が落ちているので何かあった時に打たれ弱いです。風邪や軽い食中毒でもバランスを崩すと何日も寝込むハメになるので、何にしても早め早めに医者にかかるようにしましょう。
・風邪
すぐに下痢や脱水を起こすので、だるくなってきたら早めに点滴を打ってもらいましょう。僕はひどい時には出勤前に毎日点滴を打ってもらっていました。水分だけでなく電解質も補給しましょう。(ホットアクエリアスとか梅干茶とか)風邪の予防はうがい・手洗いが基本です、数時間おきに水を飲むのもノドについたウィルスを流すので効果があります
・食中毒
「大腸が無いから大腸菌O-157は怖くないもんねー」とか思っていたら大間違いです。食中毒の菌は小腸で増殖するので大腸が無くても起こります。食中毒を起こすと激しく下痢を起こすので、すぐに脱水を起こせます。古くなった食べ物には注意しましょう。
・病院の掛かり方
「風邪や脱水などちょっとしたこと→地元のかかりつけ医」
「イレウスや胆石などの検査→地域でも大きな病院」
「大きなトラブル→執刀した大学病院」
といった具合に病院を使い分けましょう。かかりつけ医にはUCや手術のことを詳しく話しておきましょう。結構珍しがられるのでよく話しも聞いてくれますよ^^
妊娠出産
手術後に妊娠出産する場合はできるだけ執刀病院の産婦人科で産む方が良いです。(大学病院で執刀しているでしょうから産科はあると思いますが…)自然分娩よりも帝王切開で出産する方が良いそうです。これは出産時に「いきむ」出産法だと健康な人ですらお尻が裂けたりするのですが、もし術済み患者のお尻が裂けたりすれば大事になる為です。(いきまない出産方法ならOKです)兵庫医大の場合は昔は外科医も立ち会っていたそうですが、最近は医局に待機だけしています、万が一何かあった時に安心です。
特定疾患の継続
手術をしても特定疾患受給者証の更新手続きはできます。都道府県にもよりますが、認定から除外されることなく継続できている人が多いようです。申請書類の書き方にもよるようです。面倒でも後々何かあった時の為に継続手続きをしておきましょう。また、面倒で特定疾患の手続きを放ったらかして継続が切れた場合でも、回腸嚢炎などで再入院した場合などは、改めて申請することで特定疾患の認定が貰える場合があります。