毎日新聞 H11/11/19朝刊
難病の潰瘍性大腸炎患者
血液ろ過で半数治癒
エイズ治療に応用例 兵庫医大教授ら発表
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厚生省指定の難病、潰瘍性大腸炎の患者の血液を、ポリエステル繊維と同じ性質を持つ酢酸セルロースの粒子でろ過することで、患部のびらんや出血などの症状がなくなり、半数以上がほぼ治癒することが分かった。兵庫医大第4内科の下山孝教授、東大医学部第1外科などの共同研究グループが18日に発表した。イタリアでは、エイズ患者の治療に応用している。厚生省によると、潰瘍性大腸炎患者は全国で5万人以上。原因不明の難病の治療法として注目されそうだ。
潰瘍性大腸炎の治療は、これまで副腎皮質ホルモンであるステロイド剤の投与が主流。難治、重症患者の場合、長期間、大量に投与されることで骨壊死、骨粗しょう症などの副作用や合併症を起こしがちだった。
下山教授らは、患者120人を60人ずつ、ステロイド剤投与と酢酸セルロースによるろ過グループに分けた。1995年2月から98年9月の間、双方の治療法で比較した。その結果、ろ過グループでほぼ治癒した重症患者は52.6%。ステロイド剤投与では21.1%。副作用が表れたのは、ろ過グループが8.5%なのに対し、ステロイド投与では42.9%だった。
潰瘍性大腸にり患すると、大腸内に無数に存在する細菌が、潰瘍によって崩れた大腸の粘膜を浸透し、粘膜内の白血球と接触、白血球を活性化させる。細菌と接触した活性化白血球は多量に増え、大腸粘膜を攻撃し、びらん、潰瘍をつくり出血、血便の原因となる。
研究によると、酢酸セルロースの粒子を使ったろ過装置に患者の血液を通すと粒子が活性化白血球のほぼすべてを吸着し、体内から活性化白血球を除去するという。酢酸セルロースの粒子はろ過装置1基あたり3万5000個、直径2ミリ。
エイズ患者への治療は患者の血液を同様にろ過することでエイズに感染した細胞を除去する狙い。好感触を得ているという。
武藤徹一郎・財団法人癌研究会付属病院副院長の話
ステロイド剤投与が困難になった患者で手術を回避しうる場合があり、さらに半数以上の患者に効果があった点は評価できる。
ことば 潰瘍性大腸炎
15〜25歳での発症例が最も多い。年を経るにしたがって悪化し、手術を繰り返す患者もいる。全国の患者は1984年にぱ約9100人だったが、97年には約5万1000人と5倍以上に増えた。75年に難病に指定された。
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