asahi.com 2004年11月2日
ビタミン由来成分「鍵」 炎症性腸疾患のT細胞侵入解明
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病原体や毒素に感染した細胞を攻撃する血管内のT細胞が炎症性の腸疾患を引き起こすことに関し、T細胞が腸組織に入り込むメカニズムを三菱化学生命科学研究所の岩田誠主任研究員らが突き止めた。腸組織に入るT細胞の数を抑えることができれば、T細胞が原因とされるクローン病などの炎症性腸疾患(国内患者数は10万人程度)の新治療法に結びつくと期待されている。
米免疫学専門誌イミュニティの最新号に掲載された。岩田氏らは、通常は血管内を流れるT細胞が、ビタミンAからできるレチノイン酸によって「鍵」をつくり、血管の壁にある糖たんぱく質の突起と結びつき、本来の性質が変わらないまま血管の壁のすき間を通り抜けるようになるという仕組みを見つけた。
レチノイン酸の血中濃度を通常の10分の1にしたマウスの実験で、腸組織内のT細胞の数が20分の1に減ったという。T細胞が、腸の正常細胞まで誤って攻撃するようになると、炎症性の腸疾患につながる。
腸の特定の場所でつくられるレチノイン酸の量を少なくしたり、作用を抑えたりすれば、腸組織内のT細胞の数を減らすことができ、岩田氏は「特に発症初期の炎症性腸疾患に有効な治療法となりうる」としている。
また「レチノイン酸はT細胞が膵臓(すいぞう)に入る『鍵』の一つをつくる可能性も高い」とし、血糖値を下げるインスリンを分泌する膵臓内の膵島をT細胞が攻撃することで起こる「1型糖尿病」(国内患者数は30万人程度)の治療法にも応用が見込まれるという。
岩田氏らは今後、T細胞が皮膚や肺組織などに入る際の「鍵」となる物質の特定を進める。
〈T細胞〉 白血球の中のリンパ球の一種で、免疫機能の「司令塔」の役割を果たす。体内に入り込んだ病原体や毒素に感染した細胞を攻めるとともに、他種のリンパ球(B細胞)に対して、こうした病原体や毒素を無力化する抗体をつくるよう命令。血管内にあるが、レチノイン酸によって、通常は入らない腸の組織内に入ることがわかった。 (11/02 03:06)
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